腹部大動脈瘤手術(開腹手術、EVAR)
腹部大動脈瘤とは
心臓から拍出されるすべての血液は体のなかで一番太い血管、大動脈に流れ込みます。大動脈は通常2~3cmの太さがあります。大動脈は背骨に沿って走行し、おへその少し下の部分で二股に分かれて足の血管につながります。おなかの部分の大動脈が拡大したものを腹部大動脈瘤といいます。
大動脈瘤が拡大しても症状がでることはほとんどありません。しかし、破裂すると激しい腹痛とともに血圧が低下し突然死する危険な病気です。
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腹部大動脈瘤に対する手術
治療は破裂を予防するのが目的です。
薬で破裂を予防することはできません。
手術は人工血管置換術とステントグラフト内挿術(EVAR)があります。
- 人工血管置換術
昔から行われている治療法で、破裂を予防する効果としては最も確実な方法です。すべての腹部大動脈瘤で手術が可能です。
全身麻酔をかけて、腹部を約15~20cm縦切開し、動脈瘤を切除して人工血管で腹部大動脈を再建します。手術時間は3~4時間くらい。手術死亡率は1%。術後10~14日の入院が必要で
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術前写真
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術中写真
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術後写真
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手術で瘤を切除するため、手術をすれば病気は完治し破裂の危険はありません。
術後は特に制限もなく、服用しなけらばならない薬もありません。
- ステントグラフト内挿術(EVAR)
腹部大動脈瘤に対して行われるステントグラフト治療をEVAR(イーバー)といいます。
ステントグラフトとは、形状記憶合金でできた骨組み「ステント」に、人工血管「グラフト」を縫い付けた筒状のものです。
下の写真は当院で主に使用しているステントグラフト(3種類)です。
ステントグラフトを血管内に留置することで、ステントグラフトがバネの力で血管内に張り付いて、大動脈瘤に直接血流が当たらなくなり破裂を予防します。
写真で示したステントグラフトは通常は4-6mmのカテーテル(細い管)の中に収納されています。手術は、足の付け根を小さく切開して大腿動脈を見つけ、そこからカテーテルを挿入していきます。X線の透視画像を見ながら腹部大動脈瘤の部分でステントグラフトを留置し、血管のなかで数種類のパーツを組み立て、ステントグラフトを完成させます。
手術時間は1-2時間です。手術当日より食事が可能で、足の付け根の傷が治った時点で退院となります。入院期間は術後約8日間です。
術後服用しなければならない薬はありませんが、破裂しないように瘤を補強する手術であるため、定期的な検査(CTや超音波検査など)が必要です。
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術前
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術中X線透視画像
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術後
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人工血管置換術とステントグラフト治療の違い
- 対象となる患者さん
人工血管置換術では全ての腹部大動脈瘤で手術が可能です。ステントグラフト治療では、動脈瘤の形によってステントグラフトを安全に挿入できない、挿入しても破裂予防の効果が期待できない場合が2~3割あり、すべての患者さんを対象とするものではありません。
- 手術
人工血管置換術では腹部の切開を必要とするのに対し、ステントグラフト治療はその必要がないため、手術の負担はステントグラフト治療の方が軽く、入院期間も短いという特徴があります。
- 手術後の破裂予防の効果
人工血管置換術では手術によって動脈瘤を切除するため、手術後は破裂する危険はまったくなくなります。一方、ステントグラフト治療もエンドリークがなければ、破裂することはありません。しかし、あくまで破裂しないように動脈瘤を補強する治療のため、頻度は少ないものの時間経過とともにその効果が弱くなる場合があります。
- どちらを選択した方がいいのか?
腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術の手術死亡率は約1%と、安全で成績も安定した治療です。手術が終われば動脈瘤は完治し、その後の治療は必要ありません。70歳以下でほかに病気がない患者様には人工血管置換術をお勧めします。
70歳以上の方や、そのほかの病気をお持ちで少しでも手術のリスクを減らしたいと考えられる患者様のうち、ステントグラフトに適した動脈瘤の形の患者様はステントグラフト治療が良い適応です。
患者様のご希望をお聞きした上で、患者さまの現在の病状、動脈瘤の形、手術後のことなどすべてを考慮して最適な治療法を選択します。
【当院の特徴】
ステントグラフト治療は特殊な技術を必要とするため、手術を行うためには外科医といえども資格が必要です。当院では3名の心臓血管外科医(伊藤、鈴木、大堀)がいずれもステントグラフトの指導医資格を持っているため、様々な種類のステントグラフトを使い患者様のニーズにあった治療方法を選択できるのが特徴です。
お気軽にご相談ください。
【当院での腹部大動脈瘤手術症例数の推移】
