Mitraclip®治療(経皮的僧帽弁接合不全修復術)

MitraClip® (マイトラクリップ)治療は外科的手術が困難な僧帽弁閉鎖不全症患者に対して、カテーテルを用いて経皮的僧帽弁形成術を行う、新しい治療法です。

1.僧帽弁閉鎖不全症とは

心臓は4つの部屋(左心房・左心室・右心房・右心室)から成り立っており、全身の血液が静脈を介して右心房に戻り、右心室から肺を循環して左心房へ流れ込み、左心室から大動脈を介して全身へ送り出されます(図1)。左心房と左心室の間には血液が逆流しないように2枚の膜で構成された僧帽弁という一方向弁がついています(図2)。僧帽弁逆流症とは、様々な原因により僧帽弁が閉じることができないために左心室から左心房へと血液が一部逆流してしまう状態で、これにより全身の血液循環の効率が損なわれてしまいます(図3)。原因として、弁の逸脱(弁が飛び出してしまう状態)が挙げられますが、これは弁を支える腱索や乳頭筋の断裂、リウマチ熱などによって生じます。その他、心筋梗塞や心不全によって左心室が拡大することで、二次的に弁の閉まりが悪くなり、逆流が起こることもあります。

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【図1】 【図2】 【図3】
2.MitraClip®マイトラクリップとは

僧帽弁逆流症の治療としては、これまでは薬物治療や心臓外科医による開胸手術(逆流を来たしている弁を形成、または置換)が主でした。薬物治療では、心不全を軽減させる薬を使用しますが、逆流を来たしている弁自体を直接治療できるわけではありません。外科手術は根治術ですが、高齢者や他に持病がある場合など、手術のリスクが高ければ実施が難しいことがあります。ここで説明する経皮的僧帽弁形成術とは、MitraClip NTシステム(アボット・バスキュラー・ジャパン株式会社)を用いて行われる僧帽弁逆流症に対する血管内カテーテル治療を示します。本治療は2005年にヨーロッパで始まり、ヨーロッパに加え北米を中心に既に5万人以上に対して施行されています。本邦では2015~2016年にかけて治験が施行され、2018年4月を以て保険償還となり本格的に実施可能となりました。本治療ではMitraClip NTシステム(図4)を用いて、閉鎖が不十分になっている僧帽弁をクリップ (図5)で挟み込むことで逆流を制御しますが、開胸や人工心肺を必要としないので体への負担が少なく、手術リスクが高い方が主な治療対象となるのが特徴です。一方で比較的新しい治療であるため、治療後の長期間の有効性、及び安全性に関しては明らかでない部分もあります。

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【図4】 【図5】
3.治療の流れ

治療は全身麻酔下に行われ、心臓超音波専門医による経食道心エコー検査を参照しながら手術を進めていきます。足の付け根からカテーテルを挿入し、右心房から心房中隔を通って左心房に進めて行きます。ガイドカテーテルからクリップのついたクリップデリバリーシステムを僧帽弁の適切な位置まで持っていき、クリップを留置します。逆流が残存している場合は、クリップを置き直すことが可能で、追加のクリップを留置することもできます。クリップを留置し終えたら、足の付け根の止血を行い治療が終了します。通常は術後数日で退院することができます。

4.MitraClip®マイトラクリップの適応
左心室駆出率20%以上
症候性の高度僧帽弁閉鎖不全(クラス3+ または4+)
外科的開心術が困難な場合
5.MitraClip®マイトラクリップ
身体への負担が少ない

外科的な弁置換術のように胸を大きく切開せず、また、心臓を停止させる必要がありませんので、患者様への負担を少なくすることが可能です。

外科手術が行えない、又は手術リスクが高い方にも実施可能

高齢者や心臓以外の合併症のため治療が行えないようなハイリスクの患者様でも行えるようになりました。

早期の社会復帰が可能

術後、早期にリハビリを行いますので開胸手術より入院期間で治療が完了します(患者様の病状や体調によります)

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6.担当医師の紹介

当院では2022年3月より僧帽弁閉鎖不全症に対するマイトラクリップを用いた加療を開始しました。

医師(循環器内科専門医、心臓血管外科専門医、麻酔科専門医)・看護師・臨床検査技師・放射線技師・薬剤師・栄養士・心臓リハビリテーション指導士等の札幌孝仁会記念病院全体の力を合わせて、僧帽弁逆流をただ単に減らすだけではなく心不全の再発予防に重点を置いて、全人的なアプローチで治療に取り組んで行きます。宜しくお願い致します。
 

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副院長 兼 心臓血管センター長
 山下 武廣医師
循環器内科 医長 三浦 史郎
医師
循環器内科 呉林 英悟医師
循環器内科 辻永 真吾医師 循環器内科 村田 有医師